[ショッピングモールの掟]
駅前に公益的施設

市庁舎の建てかえは、駅前商業施設の撤退を待つのが良いのです。

Contents
>余った土地に公益的施設
>>駅前に適地がない>>一等地は値段が高い>>歩かせるのも街の活性化につながる
>駅前の商業施設が撤退する
>駅前の主役が公益的施設

余った土地に公益的施設

 公益的施設は、駅から離れていることが多いのです。駅の方が後にできた場合もあるでしょう。しかし、みんなが使うものは便利な駅前にあれば良いと思うのですが、なかなか立地できません。

 ここでいう公益的施設は、一般に公共施設と言われているものですが、道路、公園、河川などを除いた、市民が利用する建物ということにしておきましょう。市役所や市民会館、図書館、学校、医療施設などです。

 学校や病院が不便なところに追いやられている様子は、新しい学校と病院は不便で語った通りです。

駅前に適地がない

 そもそも駅前の一等地に市民会館が出来るほどの広い用地が自然発生することはないでしょう。運良く市街地開発事業(土地区画整理事業や市街地再開発事業)が事業化しても、一等地を確保できるとは限りません。道路や駅前広場、公園等は「公共施設」として自動的に用地が確保されますが、公益的施設用地には強制力がありません。一般の宅地と同様に土地所有者から購入することになるのです。

一等地は値段が高い

 一等地に広い土地が確保できたとしましょう。例えば

  • ビルを建てるのに消極的な土地所有者の土地
  • 保留地といって売却のために土地区画整理事業で設定した土地

などが購入可能となる場合です。

 でも一等地の価格は高いのです。市民のためだからといって適正な金額を下回るわけにはいきません。特に保留地は、この売却益で工事費等をまかないますので、保留地の減額は土地所有者にしわ寄せがくる仕組みになっているのです。

 一方、市民会館のために高い土地を購入することに対して市民の理解が得られるかどうかが問題となるのです。市民のためのことなのですが、何でも「経費削減」と言っていると大切な買物チャンスも失ってしまうわけです。

 結局のところ、売る側買う側の利害が一致して、そんなことより大型百貨店やスーパーを誘致することになってしまうのです。

歩かせるのも街の活性化につながる

 このようなわけで、駅には市民会館が立地しにくいのです。下記の地図に示すような感じです。ここは古いタイプの土地区画整理事業地で、駅前に大きな商業施設を設けていないタイプです。駅前はあまり大規模でない雑居ビルが林立するまちなみです。

 地図の中に示した赤のエリアが雑居ビルが立ち並ぶ中心市街地、矢印が撮影方向を示します。市役所に行くにも、デパートに行くにも、市民劇場に行くにも少し歩くことになるのです。

公益的施設が中心市街地の外側
地図

市役所を望む
遠景1

デパートを望む
遠景2

市民劇場を望む
遠景3

 しかしまちの形成上、必ずしも悪いともいえないのです。公益的施設の利用者は多めに歩かされるわけですが、人通りが商店街の形成に役立っているのです。専門店街を挟むように核店舗を配置するメリットについてはアメリカのショッピングモールを歩いてみればに語った通りです。

駅前の商業施設が撤退する

 今や商業施設が良いテナントとは限りません。商業施設はハイリスクハイリターンと考えると良いでしょう。採算が合わなくなれば、撤退するというのは民間企業であれば仕方ありません。

「中心市街地の空きビル活用及びリニューアル事例調査」(平成24年3月国土交通省)によれば、

  1. 大規模店舗(撤退したデパート、スーパー、大規模商業ビル、再開発ビル)
  2. 空洞化したテナントオフィスビル
  3. 不要になった自用オフィスビル(店舗統廃合後の銀行など)
  4. 公共施設(廃校跡地等を含む)

に対し、リノベーションを実施した事例が数多く報告されています。全国的に更地に新しいビルを建てる元気のある都市は少なくなっており、居抜き出店(テナントの空調・電気・厨房設備などを流用するメリットなどがある)で、コストダウンを図る時代なのです。

 「中心市街地の空きビル活用及びリニューアル事例調査」の一文では、価値の下落に直面する厳しい現実も報告されています。

時価での購入にあたっては、相当の抵抗があった。購入時点は坪単価約30 万〜40 万円だったものが、現在の時価は約10 万円程度である。一番高かった時には、バブル前に約120 万円という時代もあり、その時に購入した方もいる。しかし、区分所有であるが故に、権利床を持ち続けると、所有している店を閉めていても共益費を負担しなければならないことなどを丁寧に、そして繰り返し説明することで、最終的には理解を得ることができた。

駅前の主役が公益的施設

 かつての優良テナントである商業施設が撤退し、公益的施設に生まれ変わっているのです。まちの活力が失われていることは間違いないのですが、公共交通から至近に公益的施設が集約できるというのは望ましい方向でもあるのです。

 さいたま新都心では電波塔(スカイツリー)の誘致が実現せず、オフィスビルの誘致も事業者が撤退するという二転三転の後に、総合病院の誘致が決定となるようです。

 他の地方都市に比べれば、大宮や浦和は比較的にぎやかですから、土地所有者としては商業施設を誘致して土地の価値を最大限に高めて欲しいと思うのは当然でしょう。しかし、事業化の分析をした結果、商業施設の業者が撤退したわけです。現在における価値はそれなりであることを認めるべきでしょう。そんな社会情勢の中で病院を誘致できたことは評価できるものです。

 しかしながら、いろんな意見があるものです。それぞれ行政側が回答しているのですが、行政側の方がなるほどな理屈です。

8−1A街区は今までにぎわいづくりを目的として、地元の大変な協力・努力のもと、埼玉県が街づくりを進めてきた。なぜ平米96万円もする埼玉県の一等地に病院を建設するのか。にぎわいづくりに期待してきた住民や立ち退きをした住民に丁寧に説明してほしい。
(->県の回答)
和解金を支払ってまで民間事業者が撤退し、民間開発が困難な状況である。社会経済情勢が変わり民間によるにぎわいづくりは困難と判断せざるを得ない。貴重な土地の有効活用を検討した結果、喫緊の課題である医療体制の充実を図ることとした。丁寧に説明していきたい。

->病院とは高いタクシー代を払って行く不便な郊外の施設という認識があるのでしょう。

市役所を新都心近辺に移すという話があったが、8−1Aは適地ではないか。
(->さいたま市の回答)
合併協定書においては、「将来の新市の事務所の位置については、さいたま新都心周辺が望ましいとの意見を踏まえ検討する」とされているが、8−1Aに市役所を設置ということではない。市庁舎検討委員会において現在検討を進めている。

->豪華な市役所ビルを建てる発想は財政に過大な負担をかけかねません。現在浦和区にある市庁舎を建て替えるような時や商業施設が撤退する時などのタイミングが妥当でしょう。せっかくまとまりつつある病院計画を覆す必要はありません。

駅近といっても全ての人が鉄道利用とはならない。バス便の整備は考えていないのか。
(->県の回答)
バス路線については具体的な検討は行っていない。

->これは、バス路線も無いような不便な地域に病院を移転する時の質問でしょう。

県・市が土地を取得して民間に賃貸するという発想はないのか。何故民間ではダメなのか。
(->県の回答)
従来の土地の考え方は、民間に土地を処分(売買)して民間主導の開発を念頭に置いていた。それが頓挫して公共主体で事業展開するとなった場合、公共性の強い事業でないと税金を投入できない。賑わい施設に貸すために税金を投入するのは県民の理解を得ることは難しい。

->商業施設については、すでに駅の東側にイトーヨカードーやコクーンなどのショッピングモールがあり、大宮や浦和といった既存の商業集積と競合しているのです。共倒れにならないような戦略も必要なところでしょう。

 説明会の対象は、主に利害関係者です。自分たちの利益のため主張するのは当然のことです。

 しかしこの質問の内容が市民の声を代弁しているとは限りません。将来病院が出来れば、数多くの患者が便利さを実感するでしょう。でも将来自分がお世話になるかもしれない病院計画を、今からわざわざ「賛成」の声をあげることもないでしょう。このような沈黙の声は常に意識する必要があります。

 全国的な中心市街地の縮小傾向に対して、さいたま市ではあまり深刻な影響はないのかもしれませんが、駅前に公益的施設を集約することは一つの流れとして認識する必要があると思うのです。

(12.10.01)

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