イベント、広告、有力店の誘致に加えて、モール内の店舗配置はこれからますます重要になってくると思います。
ここに示したのは、土地評価に使用する表の一部です。
奥行き(m) | 高度商業地 | 商業地 | 住居地 |
---|---|---|---|
6 | 99.1 | 97.9 | 95.0 |
7 | 99.4 | 98.5 | 96.1 |
8 | 99.7 | 98.9 | 96.9 |
9 | 99.8 | 99.2 | 97.6 |
10 | 100.0 | 99.6 | 98.2 |
11 | 98.5 | 99.8 | 98.6 |
12 | 97.0 | 100.0 | 99.1 |
13 | 95.6 | 99.0 | 99.4 |
14 | 94.2 | 98.0 | 99.7 |
15 | 92.1 | 97.0 | 100.0 |
16 | 91.5 | 96.1 | 99.5 |
17 | 90.2 | 95.2 | 98.9 |
18 | 89.0 | 94.3 | 98.4 |
19 | 87.8 | 93.4 | 97.9 |
20 | 86.6 | 92.5 | 97.4 |
奥行き20mの住居地が1平方メートルあたり20万円で取り引きされるとすれば(数値は100(%)ですから減点はありません)、奥行き10mの土地は20万円×98.2%=19.64万円となるわけです。実際には形状、高低差など数種類の指標があるのですが、今回は奥行きについてのみのお話ですから割愛します。
住居地とは異なり、商業地では12mの時、高度商業地では奥行き10mの時に最も価値が高い100%となっていることから、商業地は奥行きが狭い方が好まれる事がわかります。
間口と奥行きの関係
例えば180平方メートルの土地があったとします。住居地として理想なのは南側が道路に面していて、まずは庭があって奥に住戸があるという構成。庭と住戸が縦に並ぶので、ある程度奥行きがあった方が有利というわけです。
一方、店舗では庭に相当する奥行きは不要です。また、お客さんを奥まで誘導するのは大変なので、かえって奥行きがじゃまになることもあります。
「奥行きが短くて良い」は「間口が広い方が良い」の裏返しです。同じ180平方メートルの面積であっても、間口が12m(奥行きが15mの場合)と18m(奥行きが10mの場合)では、1.5倍の差があります。看板を立てるなら、1.5倍幅の広いものを立てることが出来るわけです。
大きな看板は有利
右の店には「文具の」という文字を追加することが出来ました。間口が広ければ商売繁盛というわけです。これを間口信仰と呼んでおきましょう。
常々、日本のショッピングモールの通路は幅が狭くて、距離が長いと思っていました。ショッピングモールの運営者が通路の幅を犠牲にして、通路の距離を確保するというのは、「間口信仰」と関わりがありそうです。
運営者は貸し出す店舗の形状を検討する時点ではどんな規模のテナントが入ってくるかわからないことがあります。この時リスクの少ない選択としては、とりあえず奥行き狭いの店舗を用意しておけば、間口長を調節して小さな店舗でも大きな店舗でも対応出来るというわけです。実際には小さめの間口をひとつの単位として、規模が必要なら複数貸し出すという感じです。
同じ面積でも間口が広いほどテナント(借り手)に歓迎されるのですから、奥行きを統一するのは一見公平のように見えますが、利用者の立場としては歓迎できません。相対的に狭く長くなってしまう通路にはメリハリをつける修景施設を配置するのも難しく、単調な通路となってしまうのです。
さらに店舗側もこの幅の広い間口を十分に生かしていないことが多いように見受けられます。せっかくの間口ですからキャッチコピーや目玉商品、上品にショーウィンドウ等、店をアピールできる宝の山のはずです。ところが、ガラス越しに店内が見えるものの陳列だなの裏側だったり、単なる壁だったり、アピールしているようには見えません。陳列だなの裏側を見るためにショッピングモールに来たわけではありません。
だからといって、即座にお客が去ってしまうほどのインパクトはありませんが、マイナスイメージであることは確かです。ショッピングモール間の競争が激しければ、減点項目のひとつに挙げられるでしょう。
長い通路に店舗がまばらという閑散とした空間より、賑わいが連続する空間の方が良いでしょう。アメリカ型のショッピングモールの配置は参考となるはずです。
そのための工夫として大切なのが大きな店の間口対策。間口を確保する対策ではありません。延々とおなじ店舗の間口が続かないように、間口を狭くする対策です。何度も言うようですが充分に活用していない広い間口が少々狭くなったところで、その分たくさんの店舗の賑わいがでたほうが得策だと考えます。
下の図で通路の左側の店舗数を比較してみれば、広い間口だと5軒のみですが、狭い間口だと12軒見えます。
広い間口だと5軒
狭い間口だと12軒
12軒の方が賑わいを創出しやすいように思えるのです。
うなぎの寝床
アメリカ型は間口が狭く奥行きが長いうなぎの寝床状の店舗が一般的です。裏にはサービス通路が配置されていて商品の運搬はお客さんから見えません。
これはアメリカに限った特徴ではありません。日本でも古くからの街道筋では「うなぎの寝床」状の商家が軒を連ねる事例に事欠きません。間口に比例して課税されたからという言い方もされますが、間口を譲り合うための知恵だと考えれば納得できます。
大きな店舗
何でも大きなアメリカにも小規模な店舗はあります。長い奥行きのままだと利用に支障がでるほど狭い間口となってしまう場合、大きな店舗と隣接させて、奥の部分を大きな店舗に譲るということが行われています。譲るというより、大きな店舗の店先を小さな店舗が借りるという方が適切な表現かもしれません。
蛇行する
多様な種類の店舗規模を用意するために有効な方策が通路の蛇行です。通路を右側に寄せれば、左側の店舗の奥行きは増します。逆に右側の奥行きは狭くなります。それで大中小様々な規模の店舗が用意できます。店舗の形状を整形にするためだといって直角にこだわると、なめらかな蛇行が台無しです。店舗の不整形は目をつぶり、その分通路の魅力を向上させるほうが良いはずです。
こういった方策が実現出来るのは、運営者側のコーディネーターが強力だからと言えるでしょう。良いコーディネーターの言うことを聞いていればショッピングモール自体の活気が増して、個々の店舗も潤う。アメリカのショッピングモールの運営はこんな理屈に支えられているように思えます。
(初出00.04.17)(再編集03.07.29)(再編集10.04.19)編集前
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