利用者側から見ると自動販売機のシステムは3歩前から始まっているのです。操作パネルだけでは完結しません。
ジュースの自動販売機の商品見本は離れたところからよく見えますから、歩きながらでも商品を決めることができるでしょう。自販機にお金を入れたら、商品のすぐ下にあるボタンを押せば、希望する商品が手に入るというわけです。
このように自販機の利用には、その3歩前から始まる流れがあるといえるのです。
見本の直下にボタンがある
商品が増えると、商品一覧を別に掲示する事になります。商品に形はありませんが、電車の運賃表はその一例でしょう。
運賃も調べず、いきなり券売機の前に立って途方に暮れている無計画な人もいますが、たいていは券売機から少し離れたところで、あらかじめ運賃表を調べることでしょう。3歩下がったところから眺めるということで、利用者の動きはジュースの自販機と同じです。いつもお決まりの切符を買う人は、のんびり調べている人をかき分け、先に券売機に向かうわけです。
三歩離れて運賃表を見る
電車の券売機のボタンは運賃の安い区間から順に並んでいますから、たくさんのボタンが並んでいても、探すのは簡単です。しかし自動販売機で売られているものは、順序関係が簡単なものばかりではありません。
食券は、難しいもののひとつでしょう。立ち食いそばの自動販売機は、その店の商品の豊富さを誇示するかのように何十ものボタンが並んでいます。「かけそば」の値段が安いで上の方にあるのは想像つきますが、「ちくわ天そば」と「けんちんうどん」の位置関係はちょっとわかりません。
食券の販売機では、商品一覧とボタンとの連携が良くないようです。ボタンを選ぶ動作が、メニューを決める楽しさではなく、一覧表の中から選び出すという苦痛な動作に成り下がってしまっているのです。本来、「かけそばに玉子入れてね!」と、一言で済むことなのに、面倒な苦労をかけているのですから、せめて簡単に選べるような工夫は欲しいところです。
けんちんうどんが見つからない
お店もそのことは認識しているので、いろんな工夫をしてくれています。
ただし上のふたつは「おすすめ」を選ぶときにしか役に立ちません。初めてのお店では、迷いながらボタンを探すより、だまって「おすすめ」を選ぶのが無難ということです。
私の提案は、掲示する商品一覧の配置を、ボタンと同じ配置にしておくというものです。こうすればメニューを決めると同時に、販売機上のボタンも一発で探し出せます。
品物が増えるのに比例し、ボタンを探すのが大変になります。そんな悩みを解決してくれるの、がタッチパネル方式です。対話式といって、何回か質問に答えていくと、最後に希望の商品にたどり着くという仕組みです。一度に目にするボタンの数が少ないので、ボタンを探すという苦痛は軽減されます。
対話式といっても、よくわからない用語で意味不明の質問をしてくる事もあるのです。従来、商品とボタンが一対一の関係にありましたから、必ずどこかにボタンがあるという安心感がありました。しかしタッチパネル式の選択肢は、パネルに対面して初めて知らされるものです。ちょっとした操作ミスで自分の目的とかけ離れた質問が登場することもあるでしょう。想定外の質問にきちんと答えられるかどうかが疑問なのです。追い打ちをかけるように大きな声で「○○して下さい」なんて、余計な音声メッセージが流れたら、確実にパニックを起こします。
息子の切符を購入するために、ICカードを券売機に挿入すると、「チャージの金額はいくらですか?」と、想定外の質問を受けました。普通ICカードの利用者はピッと自動改札機を利用するものなので、先にICカードを挿入する利用者は、ほとんどがチャージのための利用ということになっている様です。でも今回は息子のために「切符」を購入するつもりだったので、突然「チャージ」についての質問を受け、ハッとしたものです。
こういった対話式のシステムはパソコンや家電でもおなじみですが、自動販売機では後ろに並ぶ人たちの存在が無言の圧力になっていることを忘れてはいけません。たとえ後ろの人が大して急いでいないとしても、気になるものです。自宅のパソコンの前なら、何度もやり直しをすることは気になりませんが、大勢の人たちが後ろに並ぶ前で試行錯誤をするのは、大変な勇気が必要です。
いろんな種類の切符をいろんな人が購入するのですから、いろんな券売機があってしかるべきでしょう。
これらは特に強調するまでもなく、旧来から実践されていることです。でもそれは、利用者の利便というより機器の機能やコストの制限から考え出された苦肉の策であった様に思えます。単機能である方が機器にかかる費用が軽減されたり、ボタンが固定されているので、商品(切符の種類)を増やせなかったりしたのです。ところがタッチパネルはパソコンソフトのバージョンアップの様にどんどん多機能にすることが可能となるのです。それなら単機能を作るより多機能を作るという発想になるのでしょう。その動機は、「良いものを作る」という善意に満ちあふれたものなのです。しかし、結果として購入時間がかかる利用者とかからない利用者が混在する結果となり、「いらいら」したり、「はらはら」したり、みんなが不幸になっているのです。
自動販売機の前で放心状態になっている人、何度もやり直しをしている人を見かけるにつれ、「高機能=いいこと」とは、とても言えないと感じるのです。
(05.04.11)
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