中途半端な印象の「補助」幹線道路を環状の公共交通軸に活用できるのです。
前回取り上げた幹線バス路線の理想像を、都市計画の面から考えてみます。バスは狭い道でも走るからといって、既存の道を探して走りなさいというのでは片手落ちです。
「幹線バス路線は環状だ」という結論がありましたが、単純に「環状道路」を整備すれば良いというものでもありません。一般にいう環状道路とは自動車交通を円滑にする意味合いが強く、市街地の中心に向けて集中する通過交通を環状道路迂回させようというものです。自動車の環状道路と言えましょう。特徴として
となります。
幹線バス路線は利用者が集まっているところを走るのが理想ですから、市街地の外縁部でなく市街地の中を走るのが理想です。ですから自動車交通のための環状道路とは違うのです。自動車の環状道路に対し、生活の環状道路と名付けてみましょう。
自動車の環状道路と生活の環状道路
生活の環状道路といって、まず思い浮かぶのがニュータウンの緑道なのです。ニュータウンの全域を一周するように計画され、歩行者ネットワークの主軸となるものです。ニュータウン内のどこからでも、容易にたどりつけるように工夫されたネットワークとなっています。
ニュータウンの緑道
まさに「生活の環状道路」の名にふさわしいものですが、難点はバスが走れないことでしょう。車道を横断するときにはがっちりと車止めでガードされています。
たまには車道を横断
バスの走れる緑道があれば理想的です。
バスの走れる緑道を強いて挙げるとすると「トランジットモール」と言えるでしょう。もともとは自動車中心だった道路を、公共交通以外の自動車を排除した道路という説明をされます。
ヨーロッパが先進地ですが、日本にもあるようです。中心市街地の人が集まるところに設定されているようです。事例については下記の参考サイトをごらんください。
公共交通軸のイメージはどうやら「トランジットモール」ということになりました。別に私が「バスの走れる緑道」なんて発想を持ってこなくとも、「公共交通軸=トランジットモール」の図式は一般的に受け入れられる事でしょう。
緑道、トランジットモール、いずれも既存の市街地に設置するのは大変な事です。
道路には沿道を利用する人がいるわけですから、自動車の利用を禁止するなんてことを言えば大変です。緑道の場合にはニュータウンという、全くあたらしいまちで計画されますから、緑道に面する宅地は、かならず別の車道に面するように工夫されています。
トランジットモールの場合、商店街など歩く人を増やすという目的があり、自動車の乗り入れをあきらめるという苦渋の選択があってのことです。
こんなわけで「バスの走れる緑道」である「トランジットモール」の普及は、なかなか進まないと思うのです。
そこで一歩譲って「通過車両のない緑道」というものを公共交通軸として位置づけようと候補を考える時「補助幹線道路」が浮上してきます。
補助幹線道路については、[格子状の道]まちづくり千年の計で紹介しましたとおり「近隣住区内の主要道路として位置付け」られています。近隣住区というのは下の図で住宅団地に該当するということで良いでしょう。
補助幹線道路は、幹線道路の支線の様な位置づけで、幹線道路より分岐しています。もっぱら住宅団地内の交通処理を目的とする道路で、極端な話、下の図の様な感じとなります。
住宅団地の(補助)幹線道路
さて補助幹線道路の整備は、幹線道路に比べて虫食い状態置かれる傾向にあります。このことは[格子状の道]成長の流れが欠かせないに取り上げましたが、都市計画道路の整備は面的整備に合わせて行うことが多く、道路は部分的に整備されます。
しかしながら広域的な連続性が求められる幹線道路は部分的な整備では待っていられないので単独事業で行われます。
いつになったら出来るのか
このような補助幹線道路ですが、この呼び名は過去のものとなりつつあります。どの都市も多くの未整備の都市計画道路網を抱えていて、今さら計画することもないという事なのでしょう。今ある都市計画道路をどの様な優先順位で整備していくかということになるわけです。
最近の傾向は、課題を重点的に解消する事です。中心市街地の渋滞問題、歩行者空間の形成などいろいろあるでしょうが、「生活の環状道路」の整備は是非実現させてもらいたいものです。
下記の図で、補助幹線道路網は細い線です。太い線で表示した幹線道路はおおむね完成しているのですが、補助幹線道路は赤い線程度です。今後すべてを整備出来ないとすれば何らかの優先順序をつけなければなりません。その際、茶色で示した「生活の環状道路」を優先的に整備してもらえると、これが公共交通軸の役割を果たしてもらえると思うのです。すでに整備されている部分もあるでしょうから、ゼロから整備するよりずっとはかどる事でしょう。
公共交通軸に沿って整備
まちづくりは既存のストックを生かす工夫が求められているところですが、あまり近視眼にならず、時には計画論から見直すことも必要でしょう。「生活の環状道路」はそんな見直し作業のなかで出来るものです。
(07.04.23)
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