都心回帰には、都市計画の想定を超えた変異があったわけです。
都市計画図の色使いは「赤青黄」の3色が基本で、それぞれ「商業地、工業地、住宅地」となっています。実際には12色に細分化されていますが、「赤青黄」の基本に変わりはありません。
どこの都市でも概ねこのような感じでしょう。
都市計画図の色使い
中心は商業地(赤色)です。たいていは鉄道の駅前でしょう。必ずしも都市の中心というわけではなく、端の方に偏在していたり、複数の場合もあるでしょう。
商業地を「にぎやかな」住宅地(黄色)が取り囲みます。商業・業務系のビルやマンションなどが混在するというイメージです。これとは別に幹線道路の沿道も線状に「にぎやかな」住宅地の指定を受けることもありますが、細かくなるので図では省略です。
「にぎやかな」住宅地の外側は「静かな」住宅地(黄緑色)となります。一戸建て住宅が主体の地域です。ビルやマンションは厳しい用途や高さの制限を受けることになりますが、そのおかげで住む環境としては良好です。
工業地(青色)は都市の端に設定されることが多いようです。
このように、都市計画図に描かれた土地利用は、赤を中心に黄、黄緑、青の順に広がっていることが一般的です。
これら「赤、黄、黄緑、青」の順序は、土地の価値の順と言っていいでしょう。商業地では階数の高いビルを建て、様々な業種のテナントを募集できます。この自由度の高さから、土地の価値は高いとされています。実際の売買でも商業地の価格は高いというのは直感的に理解できるでしょう。
にぎやかな住宅地では、募集できるテナントの用途や規模が限られ、自由度が低くなり、その分低い評価となります。
静かな住宅地では、さらに低い評価となります。居住用の建物が主体で、建てられるマンションの階数は低く制限されます。住宅は店舗より賃料は安いうえに、階数を稼げないので、収益減ということです。
そして工業地に至っては、交通が不便で環境が良くないということで、さらに評価減です。
このように都市計画は商業地から離れていくほど価値が下がっていく構成になっているのです。
バブルがはじけて「都心回帰」という言葉がもてはやされました。適正な価格で土地が取引されるという良い意味で使われているわけですが、工場の跡地利用ということについてはちょっと気になるのです。
工業地の立地は価値の低いところほどいいという面があるわけです。工場の建て替えを機に、もっと郊外の安い土地を求めて移転するという動きは自然なことです。うまくいけば跡地の売却益で土地代金のみならず、工場の建設費も捻出できます。
跡地は大抵、高層マンションや大規模な商業施設となるわけです。高い利益が見込めるからです。駅から離れているという立地面でデメリットがあったとしても、大規模でやれば利便性の問題はある程度解消するものです。
商業施設は広い商圏から集客します。道路網は上記の図面の通り、格子状に計画されていますから、自動車利用に関しては不便はありません。むしろ郊外の方が整備状況が良好かもしれません。一定の規模の人口があれば、バス路線を誘致することも可能です。
近所の人にとっては、「工場の煙が無くなって良かった」とか「買い物が便利になって良かった」といった賛成意見や、「高層マンションの陰になった」とか「交通渋滞がひどくなった」といった反対意見など賛否両論でしょう。しかし都市計画上においては根本的な問題があるのです。
大規模な商業施設や高層マンションを計画する工場跡地の利用は、「まちづくり」というキャッチフレーズが用いられ、公共性のあるような表現ですが、都市計画から見ると計画の意図に反したものなのです。都市全体から見ると工業地の位置づけであったのに、商業地やにぎやかな住宅地の役割を持ってしまうからです。都市計画図でいうと、青が突然、赤に変異したという風に見えるわけです。
青から赤への突然変異
公共施設の不足が懸念されます。工業地では定住人口を想定していませんから、上下水道や学校等が不足するかもしれません。資金面では開発者負担でなんとかなるかもしれませんが、お金ですべてが解決するとも限りません。公共施設の整備プログラムは変更を余儀なくされ、執行上で無理が生じることでしょう。
新しい「まち」は、市外から定住人口や買い物客を流入させ、市の活力(たとえば税収)を向上することになるかもしれません。しかしこれは、都市計画として意図したことではなく、「なし崩し的」な現象であるわけです。都市計画が都市をコントロールしていない状況です。
いいことばかりであればいいのですが、そうとばかりいえません。
既存の2カ所の商業地の価値が下がってしまったとしたら、その価値の恩恵を受けてきた人たちにとっては損失です。ビルのオーナーのテナント収入が減ったり、店舗の集客が減ったりすることは、考えられることです。
いままで静かだった住宅地はにぎやかになってきます。商業地に隣接することで価値が向上するのです。価値が上がるというのはいい言い方ですが、静かに住みたいという人にとっては不必要な話です。店舗やマンションの計画が続々と静かな住宅地に押し寄せてくるわけです。
本当に3カ所目の商業地がその都市に必要なら、都市計画変更の手続きを経てから「まちづくり」をすすめるべきでしょう。それなら、不利益を被る人に対しても「都市全体のことを考えて、仕方なく」と説得するのもおかしな話ではありませんし、役所として正式に対策を講じることもできるでしょう。
私が考えるまでもなく、問題は認識され、対策は講じられようとしています。工業地に商業地の役割が突然登場するのはやはりおかしなことだったのです。
下記の[参考サイト]に示すPDFファイルを見るとわかるのですが、「大規模集客施設」の立地は、工業地域でも商業地域と同様に立地可能だったのです。今回の改正ではそれを制限付きにするということで、都市計画のお墨付きがあってはじめて土地利用の変更が可能となります。
ちなみに準工業地域は従来通り規制なしです。「大規模集客施設」ほどのまとまった土地は大工場一つだけでも独立した工業地域になってしまいますので、準工業地域にあるのは小規模な工場ということになります。こんなわけで準工業地域では、あまり事例がないということなのかもしれません。
(06.03.13)
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