2.12 格子状の道

2.12.0 まちづくり千年の計

まちづくりは時間がかかるものなのです。

幹線道路と補助幹線道路

 「良好な市街地の形成のための都市計画道路の整備のあり方とその推進方策について」の答申(昭和62年8月12日答申第16号)の解説本を読んでいたのです。

 都市内道路の目標とすべき整備水準について次のように書いてあります。

 幹線道路及び補助幹線道路は、市街地の土地利用形態に適合した整備が必要である。
 住宅市街地における幹線・補助幹線道路の配置形態及び延長密度は次のように考える。幹線道路は、住宅市街地の基本的な構成要素である近隣住区の外郭に位置しその領域を規定するとともに、系統的なネットワークとして近隣住区の範囲を越える自動車交通を円滑に処理する。補助幹線道路は、近隣住区内の主要道路として位置付けられ、その配置は、学校、マーケット、近隣公園などの様々なコミュニティ施設への円滑なアクセスが確保されるよう設定される必要がある。従って、幹線道路を1kmの間隔の格子状に配置するとともに、これと同程度の延長密度で補助幹線道路を幹線道路で囲まれる地区内に配置する必要がある。
 このことから、両者を合わせた延長密度としては1平方kmあたり概ね4km必要である。

 つまり、下の図のようなものを市街地に当てはめるということです。

よく見かける道路ネットワーク概念図
道路パターン

都市計画道路

 この考え方は市町村単位で定められている都市計画道路にも採用されていて、市役所で販売されている都市計画図には、格子状のネットワークの都市計画道路を見かけます。何しろ、都市計画関連の教科書や基準にはどこにもお目見えする考え方で、決して目新しいものではありません。シンプルな考え方が計画の立案に適していたのでしょう。全国に考え方を浸透させるにもできるだけシンプルなのが良かったのでしょう。

 この都市計画道路網はたいてい、壮大な計画です。戦後何十年かたちましたがまだまだ建設途中という市町村が大半です。しかし進捗が遅いのかといわれれば、そうともいえません。格子状ネットワークでは先輩格の京都などは、千年以上もかけて現在の姿です。すでに市街化した箇所での用地買収や移転費を考えると、進捗率が50%なんていうのはなかなか好成績かもしれません。

(06.02.13)

http://hint-eng.jp/jdy07317/

2.12.1 成長の流れが欠かせない

格子状の道路網は均質に見えるために、整備の優先順位を見失う心配があるのです。

マスタープランとのつきあい

格子状道路はマスタープラン

 平安京は千年かけて立派な市街地になりましたが、藤原京、平城京、長岡京等の歴代の都は遺跡として跡形を残しているのみです。都市は縮小したり、消滅したりするものなのです。

 平安京も最初は人口がまばらでした。政治の拠点や市(いち)のまわりに住んだ程度で、その他は荒廃した土地が広がっていたということです。格子状の道路がすべて必要になるのは後世になってのことです。

 最初は必要なくとも、格子状の道路計画があったことで、長い年月にわたり、格子を意識した道づくりが行われてきたというわけです。格子状の道路はマスタープラン的な役割が強いと思えるのです。機能や人口の観点からみて現在不要であれば、整備をしないという決断もあるわけです。

市街化を抑制すべき地域

 「現在不要」という考え方は、「市街化調整区域」の指定に現れています。都市計画区域を「市街化区域」と「市街化調整区域」に分け、「市街化調整区域」は市街化を抑制するのです。

 一方の「市街化区域」ではおおむね10年以内に都市計画道路網を完成させるということですが、うまく実現したという話は聞いたことがありません。全国各地の「市街化区域」は都市の財政力から勘案してまだ広すぎるというのが実感です。

市街化区域と市街化調整区域
区域の図

 市街化区域は、どうしても現状追認型で決められている傾向があります。集落と農地が混在している地域もまとめて市街化区域に含めてしまい、面積が過大になる傾向があります。

 道路網を一気に整備するのは困難というのなら、緊急性の低い箇所は後回しにすればいいと思うわけです。

分散投下される財源

 ところが都市計画道路として決定されていれば、できるならば整備するという姿勢でここまでやってきたようです。ジグソーパズルを解くようにできるところは手当たり次第、整備を進めてきた結果、無秩序に未整備箇所が散在する結果となっています。

中心市街地

 中心市街地では、狭い道路の解消にむけて、幹線道路の整備が望まれているのですが、用地費や建物補償費が高くつくのが難点です。特に必要性の高い交差点の改良箇所は、土地の利用価値が高く、買収に応じてもらえないというジレンマがあります。投入する金額に対して整備効果が低いというところです。このようなジレンマは「[まちにはまちの道がある]バイパス建設の誘惑(http://www.geocities.jp/jdy07317/2071.html)」のページにおいて考えていますのでご参考まで。

周辺部(市街化区域内)

 都市計画の理念を考えると幹線道路の整備するだけでなく、その地域全体の細街路も同時に整備する必要があるのです。幹線道路だけの整備だと、沿道だけ商業施設が立地するものの、道路の無い奥の部分は利用できなかったり、虫食い状態に乱開発が進んだりします。そのため、一定の区域を決めて、市街地の開発事業を行うわけです。

 この開発事業、経済波及効果を考えると財政的にはメリットが大きいのですが、関係する土地所有者が格段に増え、事業に時間がかかるのが欠点です。

 合意形成が整ったところから事業をはじめますので、開発事業は連続的に実施できるとは限らず、せっかく作った道路も全線開通まではまだ先という状況です。

連続しない道路
道路の図

郊外部

 国道や県道のバイパス等は、広域的な要請から必要となりますので、市街化調整区域であっても先行して整備されます。そもそも市街化を抑制する地域ですから、周囲の土地と一体で市街地の開発事業を行う必要はありません。また用地費は郊外のため安くあがります。よって整備効率は良いのが特徴です。市町村が発表する都市計画道路の進捗率が良い数字である印象なのは、こういった郊外の道路整備が含まれていることも要因だと思うのです。

成長の流れ

「格子状」の計画は流れが見えにくい

 都市計画道路網の整備が進まないのは、「格子状」という構造的な欠点があるように思うのです。「格子状」は交通をうまく分散する利点がありますが、裏を返せばどの道路も同じ様な役割を持つということです。役割が同じであれば、優先順位も決められない。だから手当たり次第にできるところからやっていくという風になるのです。

 格子状でなければ案外簡単かもしれません。たとえば細長い都市。まずは1本幹線道路を通したら、近いところから順に整備する必要があるのだという感じがします。

細長い都市の成長
細長い都市

渦巻き状に成長した江戸

 たとえば江戸。江戸は都市の成長が右回りに渦巻き状となっているのです。最初は江戸城の天守閣を中心にしたこぢんまりとした江戸でしたが、人口の流入に伴い、拡大していきました。単に同心円に広がるのではなく、渦巻き状に成長したことで、都市基盤の整備がある程度集中して行えて、秩序ある成長が可能となったようです。

江戸の成長
江戸の成長

 直線、渦巻きに比べると、格子状は流れが見えにくいのだと思うのです。だからといって現実の都市では、格子状だから中心不在ということはありませんし、道路が分断されたままということも極力さけられています。しかし、「格子状の道路網を並べればいい」という成長の流れ不在の都市計画は、現在行き詰まりを見せています。それがどんなことなのか、別の機会に書こうと思います。

(06.02.27)

http://hint-eng.jp/jdy07317/

2.12.2 突然変異の赤いエリア

都心回帰には、都市計画の想定を超えた変異があったわけです。

中心が赤、外周に青

都市計画図の色使い

 都市計画図の色使いは「赤青黄」の3色が基本で、それぞれ「商業地、工業地、住宅地」となっています。実際には12色に細分化されていますが、「赤青黄」の基本に変わりはありません。

 どこの都市でも概ねこのような感じでしょう。

都市計画図の色使い
3色

 中心は商業地(赤色)です。たいていは鉄道の駅前でしょう。必ずしも都市の中心というわけではなく、端の方に偏在していたり、複数の場合もあるでしょう。

 商業地を「にぎやかな」住宅地(黄色)が取り囲みます。商業・業務系のビルやマンションなどが混在するというイメージです。これとは別に幹線道路の沿道も線状に「にぎやかな」住宅地の指定を受けることもありますが、細かくなるので図では省略です。

 「にぎやかな」住宅地の外側は「静かな」住宅地(黄緑色)となります。一戸建て住宅が主体の地域です。ビルやマンションは厳しい用途や高さの制限を受けることになりますが、そのおかげで住む環境としては良好です。

 工業地(青色)は都市の端に設定されることが多いようです。

このように、都市計画図に描かれた土地利用は、赤を中心に黄、黄緑、青の順に広がっていることが一般的です。

中心に向けて高くなる土地の価値

 これら「赤、黄、黄緑、青」の順序は、土地の価値の順と言っていいでしょう。商業地では階数の高いビルを建て、様々な業種のテナントを募集できます。この自由度の高さから、土地の価値は高いとされています。実際の売買でも商業地の価格は高いというのは直感的に理解できるでしょう。

 にぎやかな住宅地では、募集できるテナントの用途や規模が限られ、自由度が低くなり、その分低い評価となります。

 静かな住宅地では、さらに低い評価となります。居住用の建物が主体で、建てられるマンションの階数は低く制限されます。住宅は店舗より賃料は安いうえに、階数を稼げないので、収益減ということです。

 そして工業地に至っては、交通が不便で環境が良くないということで、さらに評価減です。

 このように都市計画は商業地から離れていくほど価値が下がっていく構成になっているのです。

都心回帰がもたらす青から赤への突然変異

都心回帰の正体

 バブルがはじけて「都心回帰」という言葉がもてはやされました。適正な価格で土地が取引されるという良い意味で使われているわけですが、工場の跡地利用ということについてはちょっと気になるのです。

 工業地の立地は価値の低いところほどいいという面があるわけです。工場の建て替えを機に、もっと郊外の安い土地を求めて移転するという動きは自然なことです。うまくいけば跡地の売却益で土地代金のみならず、工場の建設費も捻出できます。

 跡地は大抵、高層マンションや大規模な商業施設となるわけです。高い利益が見込めるからです。駅から離れているという立地面でデメリットがあったとしても、大規模でやれば利便性の問題はある程度解消するものです。

 商業施設は広い商圏から集客します。道路網は上記の図面の通り、格子状に計画されていますから、自動車利用に関しては不便はありません。むしろ郊外の方が整備状況が良好かもしれません。一定の規模の人口があれば、バス路線を誘致することも可能です。

計画的な公共施設整備の阻害

 近所の人にとっては、「工場の煙が無くなって良かった」とか「買い物が便利になって良かった」といった賛成意見や、「高層マンションの陰になった」とか「交通渋滞がひどくなった」といった反対意見など賛否両論でしょう。しかし都市計画上においては根本的な問題があるのです。

 大規模な商業施設や高層マンションを計画する工場跡地の利用は、「まちづくり」というキャッチフレーズが用いられ、公共性のあるような表現ですが、都市計画から見ると計画の意図に反したものなのです。都市全体から見ると工業地の位置づけであったのに、商業地やにぎやかな住宅地の役割を持ってしまうからです。都市計画図でいうと、青が突然、赤に変異したという風に見えるわけです。

青から赤への突然変異
右上の青が赤に

 公共施設の不足が懸念されます。工業地では定住人口を想定していませんから、上下水道や学校等が不足するかもしれません。資金面では開発者負担でなんとかなるかもしれませんが、お金ですべてが解決するとも限りません。公共施設の整備プログラムは変更を余儀なくされ、執行上で無理が生じることでしょう。

周囲への影響

 新しい「まち」は、市外から定住人口や買い物客を流入させ、市の活力(たとえば税収)を向上することになるかもしれません。しかしこれは、都市計画として意図したことではなく、「なし崩し的」な現象であるわけです。都市計画が都市をコントロールしていない状況です。

 いいことばかりであればいいのですが、そうとばかりいえません。

 既存の2カ所の商業地の価値が下がってしまったとしたら、その価値の恩恵を受けてきた人たちにとっては損失です。ビルのオーナーのテナント収入が減ったり、店舗の集客が減ったりすることは、考えられることです。

 いままで静かだった住宅地はにぎやかになってきます。商業地に隣接することで価値が向上するのです。価値が上がるというのはいい言い方ですが、静かに住みたいという人にとっては不必要な話です。店舗やマンションの計画が続々と静かな住宅地に押し寄せてくるわけです。

 本当に3カ所目の商業地がその都市に必要なら、都市計画変更の手続きを経てから「まちづくり」をすすめるべきでしょう。それなら、不利益を被る人に対しても「都市全体のことを考えて、仕方なく」と説得するのもおかしな話ではありませんし、役所として正式に対策を講じることもできるでしょう。

まちづくり3法の改正

 私が考えるまでもなく、問題は認識され、対策は講じられようとしています。工業地に商業地の役割が突然登場するのはやはりおかしなことだったのです。

 下記の[参考サイト]に示すPDFファイルを見るとわかるのですが、「大規模集客施設」の立地は、工業地域でも商業地域と同様に立地可能だったのです。今回の改正ではそれを制限付きにするということで、都市計画のお墨付きがあってはじめて土地利用の変更が可能となります。

 ちなみに準工業地域は従来通り規制なしです。「大規模集客施設」ほどのまとまった土地は大工場一つだけでも独立した工業地域になってしまいますので、準工業地域にあるのは小規模な工場ということになります。こんなわけで準工業地域では、あまり事例がないということなのかもしれません。

(06.03.13)

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2.12.3 新しい学校と病院は不便

生活の中心にあるべき学校と病院が不便な所にあるものです。

田んぼの中の学校と病院

不便な校区分けを生む市街地の端の新設校

 新設の学校は、なぜか不便な所という印象があるのです。田んぼが広がる田園風景の中に、ぽつんと立地するという感じです。学校が市街地のはずれにばかりとなると、校区分けも大変です。無理に細長い校区になり、近くに既存校があるのにもかかわらず、遠くの新設校に通うことにもなりかねません。

細長い校区
校区

新設病院はバスの終点

 学校に限らず新設の病院も同様に不便なところにある傾向が見られます。鉄道駅から離れていてバスを利用となります。○○病院前行きというのが多いのは、そんな事が背景にあるのだと思います。バス利用客の多い市街地が終わるあたりにちょうど病院があるという具合なのでしょう。

病院が終点
バス路線図

不便が誘導されている

広い土地を確保するのは大変

 いずれも、公共性が高い施設ですからまちの中心にあるのが望ましいわけです。しかし、広大な土地を新規に見つけるのは大変です。中心市街地は地価が高いし、住宅地では隣接する住民から歓迎されません。

 こう考えると、市街地から少し離れた所に立地するというのは仕方のない事なのかもしれません。

安易に郊外進出可能

 でも仕方のない事とあきらめ顔ではいけません。安易に郊外に進出する動機があるわけです。

 これらの施設は、市街化調整区域でも開発許可不要で建設できるというのです。

 市街化調整区域は住宅地の造成が抑制されている土地です。だから広い土地が残っているのです。これらの土地は住宅地としての土地活用が規制されているので、それなりの価格でしか取引されません。

 そんな状況で、学校や病院なら活用できるとなれば、土地所有者の中には是非とも売却したいという人もいるでしょう。しかも、それ以外に使い道がないのですから、条件の交渉ではあまり強きというわけにはいかないはずです。広い土地を安くで入手したい学校や病院と、少々安くても売りたいという土地所有者の利害関係が一致して、市街地のはずれに施設を設けるということになっても不思議ではありません。

 本来の主旨は、必要な施設なのだから立地を妨げないという例外規定のようなものが、実際には立地を誘導する動機となってしまっているのです。

 運営者にとって安くて容易に土地が取得できるのは良いことですが、その代償として利用者が不便を被るというのはいい気はしません。

やはり変だった

 今回も私が言うまでもなく、問題点があったようで、法の改正により、立地条件が厳しくなります。学校や病院も開発の許可が必要となります。できるだけ既存の市街地の適地を探し、仕方なく「市街化調整区域」での開発を認めるという姿勢になる事なのでしょう。

(06.03.27)

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2.12.4 交通計画図で流れを誘導

従来の都市計画図では公共交通の流れが見えてこないのです。

都市「施設」計画図だったのです

鉄道が目立たない

 都市計画図では鉄道が目立たないのです。そもそも鉄道は狭い用地でも大量輸送できるすぐれものです。太い道路に比べてただでさえ目立たないのに、都市計画図では目立たせる工夫もしていません。都市計画は旧建設省の管轄、旧運輸省の管轄する鉄道とは折り合いが悪いのでしょう。

鉄道が目立たない
鉄道の図

 たまには鉄道が目立つことがあります。都市計画図上で「都市高速鉄道」は、はしご状の模様で表現されています。未来都市の新幹線みたいなのを想像するネーミングですが、実際は普通の電車です。都市の交通といえばまず路面電車。路面電車より高速なので「高速」鉄道です。地下鉄が代表格ですから「高速」は、しっくりきません。

 都市計画において鉄道は良く思われていません。鉄道により道路や地域が分断されてしまうというのが基本的な考えです。線路のある部分では往来できませんし、踏切はたびたび開かずになります。分断要素として扱われ、それを克服するような計画が打ち立てられます。ですから立体交差化は表示されるものの既存の鉄道は目立たないのです。

国道や県道も目立たない

 古くからある国道や県道も目立ちません。都市「計画」図には、すでに完成しているものをわざわざ記載する必要はないわけです。鉄道の立体交差と同様に都市計画に基づいて建設される国道や県道は記載されます。整備された道路や公園が都市計画図に記載されていますが、計画に基づいて整備したために記載されているのです。一方、見た目は道路や公園でも農水省所管の広域農道(見た目は普通の道路)や農林公苑は記載されていないのです。

 当たり前といえば当たり前の話なのですが、単に都市「施設」の計画図だったのです。都市計画図という言葉にはまちの将来像を示したという響きがあるのですが、期待はずれです。

明るい公共交通の未来

公共交通復権のかけ声に実感がわかない

 地方都市などは顕著ですが、車社会です。駅に降り立ったら、バスがあればいい方で、タクシーしかありません。

 公共交通を見直そうといっても実感がわかないのです。目的地にたどり着くまでに複数の交通機関を乗り継ぐことになるわけですから、その一部を取り上げて「どんどん乗りましょう」だけでは、行動を起こせないのです。

交通計画図で乗り継ぐルートを明確に

 「交通計画図」を作って、乗り継ぐルートを明確にしてみるとどうでしょう。「かけ声」を図面に記載していくだけで、絵空事であることが見えてくるでしょう。鉄道を利用しようと思っても数時間に一本しか運行していなかったり、降りた駅でバス路線が無かったり。

 最初は仕方ありません。一日に数本しか運行しない鉄道でも太く表示してみたらどうでしょう。市内だけでも単行のシャトル便を運行することにつながるかもしれません。

市内だけでも太くする
鉄道の図2

 本数の多いバス路線は、有力な情報です。

バスだけでも太くする
バスの路線図

 こうして交通計画を図示できる様になって、はじめて「公共交通を見直そう」といえるのです。そもそも市民にもっとも身近な都市計画図に交通網の考え方を盛り込むのがいいと思うのですが。

(06.04.10)

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2.12.5 都市計画に公共交通軸がなかった

公共交通軸は、交通計画図の発想です。

都市計画と交通計画の融合「公共交通軸」

低密度な都市への反省

 日本の平野は一帯が農村地帯で、どこにでも人が住んでいました。一方、都市計画の計画論としては、都市と農村は明確に区切られるものとされていました。そこで都市の範囲として都市計画区域とか市街化区域で囲ってみたものの、その外側にも既存の住宅が広がっているのです。

 計画上は建設省主導の都市であったり、農水省主導の農村であったとしても、実際の生活上では、人口密度が高い地域と低い地域という程度の違いです。市役所は上水道やごみの収集など公共サービスは確保しなければなりません。

 人口が分散していると公共サービスの効率も下がりがちです。その中でも公共交通は強い影響を受け、自家用車の普及に反比例するように公共交通が弱体化してしまったのです。自家用車の便利さが享受出来るうちは良いのですが、運転できなかったり、車両を所有できなければたちまち、移動の自由が失われてしまうのです。

 少なくとも「都市」と位置付けられた地域に住んでいる限りは、公共交通のサービスを受けることができてしかるべきでしょう。こんなわけで、人口密度の低い都市への反省があるわけです。

公共交通軸に沿ってコンパクトな都市

 低密度な都市への反省は今に始まったことではありません。「都市計画区域」を「市街化区域」と「市街化調整区域」に分けて、後者は開発を抑制するという施策をとってきました。しかしながら、住宅地の開発はだめだけど、大きなショッピングセンターはどんどん立地するといった制度上の矛盾もみられ、このほどまちづくり3法の改正の一環として都市計画法が一部改正されたところです。

 単に郊外の市街化を抑制するというだけでなく、「どこを重点的に市街化するのか」という観点が必要だったわけです。「公共交通軸」に沿った核から徒歩圏が、公共交通のサービスが保証される市街地、その外側では公共交通は利用できないという色分けです。

求めるべき市街地像
平面図

 都市計画に公共交通の概念が入ってきたの省庁再編により国土交通省が誕生した成果といえるでしょう。

公共交通軸の主力はバス

 しかし公共交通軸を形成する要素を考えるとき、日本の多くの都市には「公共交通軸」が存在していないと思えるのです。

大量・中量輸送機関がある都市はこれ以上強化することもない

 資料の挿し絵(上記の求めるべき市街地像参考)をみると、公共交通軸は鉄道路線のように見えます。しかし一つの都市にいくつもの駅がある都市といえば、政令指定都市級の大都市でしょう。路面電車やモノレールといった中量輸送機関を含めても、県庁の所在地レベルの比較的大きな都市ということになるでしょう。

 これら鉄道のある都市では、公共交通軸が明確ですから心配することはありません。せいぜい路面電車を悪者にして廃止してしまうことをしなければ、公共交通軸は維持できます。

バスしかない小規模な都市に必要な「公共交通軸」

 問題はそれ以下の小規模な都市です。市域にひとつかふたつの駅があったとしても、たまたまそこにあるだけという自然発生的なものです。市街地のどこからでも徒歩でその駅に行けるほど小さな市街地でなければ、市街地には別の公共交通軸が必要となるでしょう。その主役はバスとなるわけです。

 現状で、バス路線網が公共交通軸になっているかといえば疑問です。「網」という表現が適切なように、全域をカバーするように網の目の様にバス路線は張り巡らされています。どれが軸かというような重み付けは見あたらないでしょう。結果本数が少なくなり、自家用車を利用できる人が利用したい交通機関とは言えないでしょう。

 一部の路線は運行本数が多く、軸状になっているかも知れません。しかし、これは鉄道駅同士を最短距離で結ぶ路線であったり、いくつかの路線が集約している路線であったり、自然発生的なものが多いのです。

 単に自然発生的にバスの運行本数が多いだけでは、「公共交通軸」とはいえないでしょう。「公共」と名乗るからには、計画的に配置され、維持されるものだと思うのです。バスの利用状況によっては、撤退するようなバス路線は、公共交通軸失格です。

都市計画道路網はバス路線の概念がない

バイパス

 都市の郊外では国道や県道レベルの道路がバス通りとなり、中心市街地への唯一の動線となることが多いでしょう。これらの国道や県道はたいていが歩道も無い貧弱な道路で、交通渋滞も激しい。そんな状況から、バイパスが計画されます。

 バイパスというのは、同じ路線を拡幅するよりも、ちょっと離れたところに平行してつくられることが多いのです。商店などの建物が張り付いている旧道を拡幅するよりも用地費や建物補償費が少なくて済むことや、急カーブなどを少なくした理想的な道路線形の実現など多くのメリットがあります。

 しかし、このバイパスはとんでもなく違った方向につくられることも少なくありません。例えば、長距離を結ぶ国道なら、中心市街地を避けてバイパスを計画することが多いのです。結局利用者の多い旧道にバス路線は残りますが、バイパスの方にも運行が振り分けられるのは需要次第ということになるでしょう。

 旧道かバイパスかという二者択一を考えてみても、公共交通軸という概念が無かったのだと改めて気づくのです。

グリッドパターン

 バイパスに限らず、都市計画道路網は、交通渋滞を緩和するように計画されています。格子状のパターン(グリッドパターン)で、「1箇所が渋滞しても他の部分でカバーする」、「特定の便利な道路をつくらない」といった特性があります。

どれが軸かわからない
平面図2

 これは、自動車の交通という視点から見るともっともなのですが、バイパスの場合と同様に、「公共交通軸」がどれなのかという視点からみると、どこでも「軸」となり得る可能性があるとしか言えないのです。

 まさに建設省時代にやってきた都市計画道路の整備は、どこでもバスを走らせられるという基盤整備であったのですが、どこを重点に走らせるかは運輸行政任せだったのでしょう。

 このように公共交通軸は強化されるどころか、弱められてきたのが現実だと思うのです。

(07.02.26)

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2.12.6 幹線バス路線を1本

最低限のバスサービスも必要ですが、自家用車に対抗する戦略も必要です。

先行投資が不要なバス路線

 人口10万人までの小規模な都市では、市内の交通はバスが主役となるでしょう。新交通システムやLRTが導入できる都市規模ではありません。

 バス路線は需要に応じて開設され、需要が無くなれば廃止になる。行政の指導がありますが、基本的に自然発生的なものです。

 鉄道の新線のように住宅団地の開発を当て込んで、バス路線を開設するということもありません。住宅団地の入居が完了して、需要が見込まれてから開設で充分間に合います。それでは遅いというので住宅団地の開発業者が、バス事業者に運行開始を早めてもらうお願いをするような状態でしょう。

 要するに、道路さえあれば先行投資は不要なのがバス路線。バス事業者が道路をつくることはめったにありませんので、道路の整備状況に左右されてしまうのも宿命でしょう。

バス路線が都市計画に合っているとは限らない

 中央に鉄道駅があり、バス路線といえば「となりまちへのバス路線」が、唯一という都市を想定します。

 駅から20分程度を徒歩圏としましょう。20分圏だと自転車利用の人も多く含まれるでしょう。この境界線を境に外側の地域では駅を利用するために他の公共交通機関が必要となります。

 左側に延びている「となりまちへのバス路線」沿線の人であれば、バスの恩恵はあります。駅から遠くなってもこのバス沿線であれば、バスの恩恵があるということです。

 一方、中央から右側にかけての地域では、駅から徒歩圏をはずれると、もう自家用車(またはタクシー)に頼らざるを得ないことになってしまうのです。

偏りがあるバス路線網
現状のバス路線網

 前回取り上げた「公共交通軸」の考え方によれば、公共交通から徒歩圏でいけるところに住む場所を集約しようという考えです。ところで、この「となりまちへのバス路線」が「公共交通軸」に該当するのかは疑問があるところです。都市計画としては、駅から同心円状に都市を展開しようと考えているかも知れません(こちらの方が自然)。一方、バス路線の方は「自然発生的」であって「計画的」とは言えないでしょう。

 「駅から遠くないのに不便」な地域を優先的にバス路線のサービスを考える必要があると思うのです。

シビルミニマムなコミュニティバスは、全域カバーが大変

シビルミニマムなバス路線

 コミュニティバスが自家用車(タクシー)しか交通手段しかない地域の公共交通を担っています。そんなコミュニティバスの暗黙の了解は「全市域を覆う」こと。

 全域を覆うために、数多くのバス路線を設定することになり、一路線あたりの乗客は少なくなります。

 運行本数の減少を避けるため、バス路線を集約することを考えると、迂回路が増え、運行時間が増える結果となります。

 これも仕方のない事でしょう。「シビルミニマム」という考え方から不可欠な公共サービスのひとつである位置づけなのです。

コミュニティーバスは全域カバー
理想のバス路線網

※取り上げたサイトは、バス路線図の例示のために検索でさがしたものです。検索して見つけやすかった上に、バス路線図としてわかりやすかったという点で、ウェブサイトへの取り組みが積極的なコミュニティバスのひとつといえるでしょう。

自家用車に代わるバス路線

 しかし「自家用車」対「公共交通」という図式の中では、公共交通は完敗です。自家用車の利便性にはかなわないにしろ、善戦できるバス路線の設定が必要でしょう。

 競争力を付けるためには、何よりも運行頻度がものを言います。個人的な見解では15分間隔というのが最低ラインですが、それも出来ない場合があるでしょう。それならそれで、路線を一路線に絞ることで、全資源をそこに集中すべきです。

 「幹線バス路線」と名付けて、イメージアップを図りましょう。

駅勢圏に沿ってバスは走る

幹線バス

 幹線バス路線の優等生としては、名古屋の「基幹バス」が挙げられるでしょう。大都市だからここまで立派なものができたのかも知れませんが、その発想で小さなまちでも幹線バス路線を一本に絞るといいのです。

 その路線は、上の「偏りがあるバス路線網」図で示した、「駅から遠くないのに不便」な地域を網羅するということ。駅からの徒歩圏に沿った環状の路線になることでしょう。

幹線バス路線で重点的に
公共交通軸のバス路線網

シビルミニマムな公共交通サービス

 ここで、問題になるのが「路線バス路線からはずれたエリア」をどうするかという問題。

 それらの地域は、公共交通軸の考え方から、市街化に消極的な地域となるでしょう。

 そして最低限のサービスとしてシビルミニマムな公共交通サービスが不可欠となるでしょう。

(11.09.05追加)

 名古屋の基幹バスに乗る機会がありました。せっかく路面電車並みの設備を備えながら、単なるバス扱いでもったいないというのが第一印象です。

 地下鉄の路線図に掲載するくらいでも良いと思うのです。名古屋に不慣れな私が、「基幹バス」に乗ろうと思っても、どこに路線があるのかも、なかなか知ることが出来なかったのです。

路面電車と同じ機能を持つ専用車線

車線規制標識

バス停も路面電車並みの快適さです

バス停

 地下鉄路線図(http://www.kotsu.city.nagoya.jp/dbps_data/_material_/localhost/_res/subway/_res/img/subway.jpg)にはゆとりーとライン(http://www.guideway.co.jp/)が加わったものがあるのですが、基幹バスは含まれません。もし路面電車であればきっと地下鉄路線図にも含まれていたでしょう。路面電車と遜色ない(スピードでは路面電車より早いかも)基幹バスが路線図で幹線的な交通網からはずされてしまっているのが残念でなりません。

(07.03.26)

http://hint-eng.jp/jdy07317/

2.12.7 生活の環状道路

中途半端な印象の「補助」幹線道路を環状の公共交通軸に活用できるのです。

理想の幹線バス路線はトランジットモール

生活の環状道路

 前回(2126.html)取り上げた幹線バス路線の理想像を、都市計画の面から考えてみます。バスは狭い道でも走るからといって、既存の道を探して走りなさいというのでは片手落ちです。

 「幹線バス路線は環状だ」という結論がありましたが、単純に「環状道路」を整備すれば良いというものでもありません。一般にいう環状道路とは自動車交通を円滑にする意味合いが強く、市街地の中心に向けて集中する通過交通を環状道路迂回させようというものです。自動車の環状道路と言えましょう。特徴として

となります。

 幹線バス路線は利用者が集まっているところを走るのが理想ですから、市街地の外縁部でなく市街地の中を走るのが理想です。ですから自動車交通のための環状道路とは違うのです。自動車の環状道路に対し、生活の環状道路と名付けてみましょう。

自動車の環状道路と生活の環状道路
環状道路図

歩行者限定ではない緑道でもない

 生活の環状道路といって、まず思い浮かぶのがニュータウンの緑道なのです。ニュータウンの全域を一周するように計画され、歩行者ネットワークの主軸となるものです。ニュータウン内のどこからでも、容易にたどりつけるように工夫されたネットワークとなっています。

ニュータウンの緑道
緑道の写真

 まさに「生活の環状道路」の名にふさわしいものですが、難点はバスが走れないことでしょう。車道を横断するときにはがっちりと車止めでガードされています。

たまには車道を横断
緑道の写真2

 バスの走れる緑道があれば理想的です。

トランジットモール

 バスの走れる緑道を強いて挙げるとすると「トランジットモール」と言えるでしょう。もともとは自動車中心だった道路を、公共交通以外の自動車を排除した道路という説明をされます。

 ヨーロッパが先進地ですが、日本にもあるようです。中心市街地の人が集まるところに設定されているようです。事例については下記の参考サイトをごらんください。

 公共交通軸のイメージはどうやら「トランジットモール」ということになりました。別に私が「バスの走れる緑道」なんて発想を持ってこなくとも、「公共交通軸=トランジットモール」の図式は一般的に受け入れられる事でしょう。

補助幹線道路の整備順

トランジットモールに代わる整備可能な道路

 緑道、トランジットモール、いずれも既存の市街地に設置するのは大変な事です。

 道路には沿道を利用する人がいるわけですから、自動車の利用を禁止するなんてことを言えば大変です。緑道の場合にはニュータウンという、全くあたらしいまちで計画されますから、緑道に面する宅地は、かならず別の車道に面するように工夫されています。

 トランジットモールの場合、商店街など歩く人を増やすという目的があり、自動車の乗り入れをあきらめるという苦渋の選択があってのことです。

 こんなわけで「バスの走れる緑道」である「トランジットモール」の普及は、なかなか進まないと思うのです。

 そこで一歩譲って「通過車両のない緑道」というものを公共交通軸として位置づけようと候補を考える時「補助幹線道路」が浮上してきます。

住区のための補助幹線道路

補助幹線道路については、[格子状の道]まちづくり千年の計(2120.html)で紹介しましたとおり「近隣住区内の主要道路として位置付け」られています。近隣住区というのは下の図で住宅団地に該当するということで良いでしょう。

 補助幹線道路は、幹線道路の支線の様な位置づけで、幹線道路より分岐しています。もっぱら住宅団地内の交通処理を目的とする道路で、極端な話、下の図の様な感じとなります。

住宅団地の(補助)幹線道路
住宅団地の図

 さて補助幹線道路の整備は、幹線道路に比べて虫食い状態置かれる傾向にあります。このことは[格子状の道]成長の流れが欠かせない(2121.html)に取り上げましたが、都市計画道路の整備は面的整備に合わせて行うことが多く、道路は部分的に整備されます。

 しかしながら広域的な連続性が求められる幹線道路は部分的な整備では待っていられないので単独事業で行われます。

いつになったら出来るのか
補助幹線の図

 このような補助幹線道路ですが、この呼び名は過去のものとなりつつあります。どの都市も多くの未整備の都市計画道路網を抱えていて、今さら計画することもないという事なのでしょう。今ある都市計画道路をどの様な優先順位で整備していくかということになるわけです。

重点整備の一環に

 最近の傾向は、課題を重点的に解消する事です。中心市街地の渋滞問題、歩行者空間の形成などいろいろあるでしょうが、「生活の環状道路」の整備は是非実現させてもらいたいものです。

 下記の図で、補助幹線道路網は細い線です。太い線で表示した幹線道路はおおむね完成しているのですが、補助幹線道路は赤い線程度です。今後すべてを整備出来ないとすれば何らかの優先順序をつけなければなりません。その際、茶色で示した「生活の環状道路」を優先的に整備してもらえると、これが公共交通軸の役割を果たしてもらえると思うのです。すでに整備されている部分もあるでしょうから、ゼロから整備するよりずっとはかどる事でしょう。

公共交通軸に沿って整備
格子状の図

 まちづくりは既存のストックを生かす工夫が求められているところですが、あまり近視眼にならず、時には計画論から見直すことも必要でしょう。「生活の環状道路」はそんな見直し作業のなかで出来るものです。

(07.04.23)