大自然を小さな箱庭に盛り込んだ兼六園は、渓流の流れが全体をまとめているようです。
金沢市にある兼六園。一度しか訪れたことがないのですが、印象に残る庭園でした。
兼六園の春
写真提供:金沢市
観光案内では「みどころ」を紹介しています。橋があったり、島があったり、滝があったり。その「みどころ」は共通して、「水」に関係するということに気づくでしょう。ある時は水を渡って、水に囲まれて、水を見てというわけです。水辺空間は魅力ある「みどころ」になる条件のようです。
それなら、それらの「みどころ」を配置した公園をつくってみたらどうでしょう。仮に「兼六園2」という公園を計画してみましょう。橋のゾーン、渓流のゾーン、滝のゾーン、島のゾーンの4ゾーンに分かれ、それぞれに「みどころ」が配置されています。
「みどころ」が集まった公園なのですから、非は無いはずなのですが、何かしっくりこない点があります。なんか、まとまりが無いというか。
これは身近な公園にありがちな違和感ではないでしょうか。近所の公園では、野球場、テニスコート、フィールドアスレチック、幼児向け遊園等がゾーンに区分され、他のゾーンとは隔離すされています。それぞれの機能を並べただけで、公園全体としてまとまりはありません。こ公園の場合、おそらく安全性を重視したのでしょう。野球場と幼児向け遊園は明確に区分されているべきでしょうから。しかしこの発想は兼六園2にはふさわしくありません。
兼六園2の場合、渓流はゾーンとして独立させず、橋、滝、島を渓流で結べばきっと魅力的なものになります。
ゾーニングによる計画手法は、最初に大まかなゾーニングを決め、後はお互いの計画には干渉しない様にそれぞれが計画をすすめていくというものです。配置計画の作業は遂行しやすいのですが、それぞれのゾーンの中で完結する施設が並ぶ結果となり、全体としてのまとまりは二の次ということになってしまいかねません。
「みどころ」にたまたま渓流があったのではなく、渓流にそって「みどころ」があると考えるとわかりやすいようです。兼六園の渓流は上流から下流まで蛇行や分岐をしながら兼六園全体に広がっているわけですから、どの「みどころ」も渓流に関係して当然なわけです。
これだけ効率よく、「みどころ」を巡っているのですから、渓流に沿って散策するのがいいでしょう。渓流は縦横に張り巡らされている散策路と違い、支流をあわせて2ルートしかありませんから、コースの選択に悩む必要はありません。高低差があり、蛇行していますので、見える風景が変化に富んでいます。上流から下流まで一連の物語のようです。狭い敷地でのことですが、上高地の散策にも似た風景の変化が楽しめるわけです。
大きな自然を小さな箱庭に切り取る際に、忘れずに流れを詰め込んでくれた兼六園には脱帽です。
この夏あらためて兼六園を訪れ、ここで提案した歩き方「渓流に沿って歩く」を実践してみました。
私のおぼろげな過去の記憶よりも数多くの渓流があり、多様な風景が展開されていました。あらためて兼六園の奥深さに感心したところです。
渓流に沿った道を歩く
今回は妻と息子を引き連れての散策でした。あらかじめ「渓流に沿って歩く」事でいろいろな景色が楽しめるとの旨を説明したのですが、2人ともそんなことを理解する気はありません。「何でこんな遠回りをするのか」とばかりに、退屈そうについてきています。
きっと「お気軽1時間コース」のように、選りすぐりの名所をいくつか(効率よく)巡る方が良いのでしょう。しかし私としては点と点を結ぶだけではせっかくの散策がもったいないと思うのです。
家族ですら自由に行動出来ない状態ですから、団体行動でここに訪れていたとすれば、おそらくガイドさんに連れられ、誰もが認めるお墨付きの景色を眺めるだけで、新しい発見することも無かったでしょう。
流れを探す旅は孤独なものですが、たまには寄り道をするための孤独も必要なものだと考えるのです。
(初出00.06.13)
(再編集03.10.06)
(追加04.11.08)
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