伝えたいことはひとつだけ。一度にたくさんの事を伝えると何が言いたいのかわからなくなってしまいます。
湾岸戦争の頃、私はアメリカに居りました。英語はちんぷんかんぷんだったのですが、お笑い番組でのジョージブッシュ大統領のパロディーが大変わかりやすかった記憶があります。
戦争相手の○○国に対して、「○○ is Bad」を連呼するというものです。息子である現大統領も「悪の枢軸」なんて名指ししていますので、そんなものだったのでしょう。わかりやすい言葉で言い含めるように国民に伝える様子をおもしろくまねているというわけです。
「この大統領はなんて単細胞なんだ!」なんて、冷ややかな視線を送る前に、こういう言い方になる理由を考えてみたいところです。
大統領は、バカのひとつ覚えで連呼しているわけでは無いでしょう。「○○国の独裁者は隣の国に侵略する」し、「残酷な手口で大勢の人を殺している」「もちろん、たくさんのいい人がおり、救ってあげたい。」と、いろいろな考えを背景としてもっていいるでしょう。だからといって、質問を受けたり演説をする度にこれらのことをごちゃごちゃ言っているのでは、まどろっこしすぎます。まるで「いろいろあるが甲乙つけ難し」と言っている様に聞こえ、頼りない大統領になってしまいます。だから男らしく一言「○○ is Bad」なのだと思います。
いろんな人種が一緒に暮らし、私を含め言葉が不自由な人々が結構多いこの国では、伝える技術にもひと工夫あるわけです。そしてこの技術を駆使することで、相手に対し考えを伝えることが容易になるわけです。
何度もレポートを書く機会がありました。流れるような名文なんて最初からあきらめていましたが、単語をつなげてなんとか意志は伝わった様です。何度もいわれたのが「何が言いたいのかひとつだけ述べなさい」というもの。文のThesisというのですが、伝えたいことを絞り込むというのは、当たり前のことの様ですがひと苦労です。
大統領も○○国については、いろいろと伝えたいことがあるわけです。先に述べたように
ということの他にも
なんて地理か歴史の教科書になりそうな事もあって、まとまりがつきません。結局「○○国について」というような無難なまとめになるわけですが、これでは伝えたいことを伝えていないのに等しい状況です。
上の例では「石油の埋蔵量が多い」とか「4大文明発祥の地」などがじゃまです。せっかくの知識だからこの際披露しようというわけですが、言えばいいというものではありません。読み手はだから「何が言いたいのか?」ということになってしまいます。
中には、見識のある人がいて、「あなたはこういうことが言いたいのですね」と、察してくれるでしょう。でも、他の人が察してくれるようなことはあなたがわざわざ言わなくてもいいわけです。それがつまらないことであっても、極端であっても、「伝えたいこと」は不可欠なのです。
「伝えたいこと」と「説明」
図にすると「ろうと」を逆さまにしたような三角形になります。前回も同じ様な図を書きましたが今回は少し詳細です。先端の「伝えたいこと」と残りの部分の「説明」に分かれています。「説明」は複数あると説得力を持つということで3つの部分に分かれています。
これらの部品が、がっちり組み合わさって、伝えることが出来るということです。
この中の「説明」に関して言えば、過不足無く盛り込むということが大切でしょう。「石油の埋蔵量が多い」とか「4大文明発祥の地」は、「伝えたいこと」の説明になっていないなら容赦なく削除しましょう。
もし、「石油の埋蔵量が多い」ということを言っておかなければならないと言うのであれば、おそらく「伝えたいこと」がもっと別な事であるに違いありません。例えば、「石油の利権が欲しいから・・・」「○○国を攻撃する」という文脈になるわけです。
自分の文や他の人の文を読む際に、「伝えたいこと」と、その「説明」が過不足無く書かれているか確認してみてください。一見、名文に見えるのに「伝えたいこと」が見えないとか、逆に「伝えたいこと」だらけで、なぜなのか「説明」がよくわからないとか。これらは日本語の文においても言えることだと思います。
(03.12.29)
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